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藤の屋文具店

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猿でも書けるエッセイ教室 4



        【猿でも書けるエッセイ教室】

          無駄な遠慮をやめよう


 よく、ものすごく気を遣っておそるおそる意見を述べる方がいま
すね。まるでNHKのアナウンサーのように、どこから突っ込まれ
ても申し開きができるような、そつがないというか、好言麗色仁な
いぞぉというか、なんとも歯切れの悪い意見をおっしゃる方がいま
す。僕は嫌いです。気配りと言えば聞こえはいいけど、実はたんな
る自己保身にすぎない場合が多いからです。エッセイは、もともと
自分の感覚でものを語る行為ですから、ふにゃふにゃと歯切れの悪
い、じじいの国会答弁みたいな言い方は必要ありませんね。

 たとえどんな文章であっても、すべての人々に喜んで受け入れら
れる事は困難です。ユーモァやウィットにとんだ文章も、それを理
解できない知性の持ち主にとっては、容認し難い悪ふざけとしか受
け取れません。そんな人たちの感覚にまで気を遣って文章をチェッ
クしていたら、この世の作品は全て、中学生の英文和訳のような味
気ないものになってしまうでしょう。
 逆にまた、読者へのサービスのつもりで、書きたくもないことを
書くというのも、なかなか目論見通りの効果はないものです。退屈
な人々が、自己投影をさせてカタルシスを得るための、いわゆる使
い捨ての出版物がありますが、あんなものをお手本にすると失敗す
る事が多いです。
 たんなる金儲けのためだけの商品の文章を真似るのは、趣味とし
ての陶芸をやろうとする人が、大量生産の「型物」の茶碗を手本に、
せっかくの味のあるでっぱりやくぼみを削り落とすようなものです。

 プロは、アマチュアと違ってお仕事ですから、時には自分の意志
にそわないものを、生活のためにしかたなく書くことだってありま
す。でも、われわれアマチュアは、そんなことをする必要はありま
せんね。どんな素晴らしいものを書いたところでお金を貰えないか
わりに、誰のご機嫌とりをもする必要はありません。
 だから、もっともっと自由に書きましょう。世界中のマスメディ
アが、あたかも正義のように宣伝していることがらであっても、違
うぞと感じたら素直に感想を書きましょう。戦争中に戦意高揚小説
書くようなカスの真似なぞ、必要ありません。
 青い理想に燃えた学生運動家も、卒業して親の仕送りがなくなれ
ば、喰うために平気でおまんこ雑誌を作るのが、この平和なニッポ
ンの出版界です。われわれアマチュアくらいは、誇りを捨てずにま
ともでいましょう。

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 タバコが健康に悪いことは、喫煙家ならば誰でも知っている。自
分でも嫌になるのだが、それでもわたしはタバコを吸いたいと思う
時がよくある。もちろん、禁煙の場所では吸わないし、近くの人に
許可を求めてから吸う。精神的に楽になるからだ。確かに、わずか
とはいえ健康を害する可能性を無視して喫煙をする事は、よくない
事なのだが、わたしはそんなタバコの持つ魅力にあらがえないでい
る、弱いにんげんなのである。

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 とても、タバコ嫌いのひとに気を遣った文章ですね。でも、ここ
まで腫れ物にさわるような言い方をしても、決して、ある種の人た
ちは許してくれないでしょう。特に、放課後の教室で大人の真似を
して吸いはじめてから、ごく最近に禁煙したようなお調子者のじじ
いなんかだと、鬼の首でもとったように「タバコは健康に悪い」を
言い続けることがあります。いわゆる、「近親憎悪」というやつで
す。異性に相手にされない魅力の無い人が、儒教に走るのと似てい
ます。みっともないですね。
 正常な感覚の人から見れば、酒に溺れて肝臓を患っている人が酒
をやめないのも、喫煙家のそれも、同じ事です。飲酒は他人に迷惑
をかけないから別だという人は、交通遺児の前で素面で演説してい
ただきたいものです。ジャーナリズムの追い風を受けたときだけか
っこいいセッキョウを垂れるのは、それしか能のない三流のモノカ
キに任せておけばよろしい。

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 タバコが肉体の健康に悪い事は、俺はよく知っている。しかし、
それを承知で俺はタバコを吸う。心地よいからだ。自分の家で、禁
煙席などひとつもない喫茶店で、クルマの中で、庭の芝生の上で、
俺は吸いたいだけ自由に吸う。
 最近は、何十年もタバコを吸い続けてきたやつらが、ほんの1,
2年禁煙した程度のやつらが、くそ偉そうに喫煙の害を自慢気に言
い触らす。言ってる事は間違いばかりではないが、酒に溺れて内臓
をやられても酒にすがるような程度のやつらに、俺のタバコをあざ
笑う資格があるとでもいうのか? 
 そんなに他人の健康が気になるなら、危険なスポーツからなんか
ら、かたっぱしから抗議してまわれば良いのだ。仕事に絶対必要な
時以外は、クルマの運転だって禁止すべきだ。事故を招く観光旅行
のCMだって禁止すべきである。
 ルールを守る以上のことを他人に強要して正義を叫ぶヤツの延長
には、ついこのあいだまでの暗い社会がちらちらと見え隠れして不
安になる。

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 これくらい本音をさらけ出して書いてこそ、読んだ人の心になん
らかの印象を与える事が可能になるわけです。自分の心をすら大切
にできないような腰抜けには、他人の心を大切にすることなどでき
るはずはありません。ナアナアで調子を合わせてうすらあまったる
い群れを作ることは、本当の「優しさ」とは似て異なるものなので
す。

 誤解を招くと不愉快なので付け足しておきますが、僕はタバコは
吸いません。





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